ヨーロッパ自然食・食べ歩きメモ  

旅の訪問日記.1ドイツ

●自然食品店『りすや』

  オーナーのブリギッテは旧東ドイツの出身で、近くで自然食品店を何年かやり、最近引っ越してきた。この辺りはベルリンの旧東ドイツ側で、いまはスクラップ&ビルドの真最中。ここも新築のビルだ。表通りに店をだしたわりには新しいお客さんが増えず、ちょっと苦戦しているようだ。問題のひとつは家賃が高すぎること。3500マルクは大変だ。「ここのオーナーはフランクフルトに住んでいて、ベルリンにある、新築だというだけで、もっと高くてもいいと思っていて、しょっちゅう値上げの話をしてくるの」「このへんはお金持ちもいないし、まったくなにもわかっていないんだから」と。私にはよーくわかる。
 店の野菜はすべて計り売り。冷蔵庫も小さめだ。ここではじめてみたのが、小麦の自動の粉ひき機。パン用やミューズリー用などに、その場でひきたてのを買えるようになっている。店のキッチンでそばのスパゲティートマトソース風のものとか、玄米ピラフみたいなのを作って、持ち帰り用に売っている。店の奥にはカウンターと椅子がいくつかあり、お茶を飲んだりできる。
 朝、「おはよう」とお店に寄ると、「お茶を飲んでいかない」といわれ、梅干し(ムソーのだった)をくれたりする。「これはとても体にいいものよ」と説明すると、「知ってる、知ってる、二日酔のとき朝お茶に入れて飲むとすっきりするし、頭が痛い時に貼るといいのよ」なんて、よく知っているのだ。話好きで、「それでさっきの話の続きだけど」と言う調子で、時間がどんどんたっていく。お客さんへの応対も、しゃべる時間が長い。途中、電話がかかってきても、みんな慌てることなく順番を待っている。
 いつも髪の毛ふりみだして、「ハァ~」という溜息が時々。言っちゃ悪いけれど、私も含めて自然食品店の経営者ってこんなかんじがおおい。
 買物しようとすると、果物だのチーズだのを持っていけとくれる。パンを買おうとするとこれはもう売れ残りだからと、また貰ってしまう。私達の宿がいわゆるバジェット旅行者のそれだからか、「旅行するのにお金使って大変だろう」とまで言ってくれる。本当に良いひとなのだ。


●自然食品店『MUTTER ERDE』

MUTTER ERDEマザーアースという意味。使いこまれた木の床にオール木造りの棚、高い天井に、しっくいのぬられた白い壁。買物カゴは自然素材で編んだ大小のバスケット。店の大きさは見た目より広いようだ。壁にそって棚がならび奥のほうに小さいオープンの冷蔵庫がひとつ。入り口に近いほうの左手にやはり木造りのレジカウンターがあり、レジのとなりにも小さい冷蔵ショーケースがある。


 入って右側の壁に沿った棚の、下から4段はすべて野菜と果物。じゃがいもや人参も、さやいんげん、きぬさや、そしてほうれんそうも全部自分でほしいだけとって、つるしてある袋にいれたり、直接かごにいれる。果物も苺だけは紙製の箱に入っているけれどあとはすべて量り。
 野菜の種類は、そんなに多くはないようだ。ほうれんそうが日本のように束ねてなく、根も葉もぐちゃぐちゃに入っているのにはぎょっとする。食べかたが違うせいかもしれない。果物ではこの季節ならではのルーバーブが沢山。りんごは虫くいのうえ小さくておもちゃみたい。バナナはドミニカから、グレープフルーツやキューイフルーツも認定品のようだけれど輸入品。


▲シャンプーの量り売り。

 

この店は25年やっており、ベルリンでも古い店だという。話をきいた彼は現在の経営者で、10年位やっているとのこと。もの静かで、丁寧で、繊細そうなかんじの人だ。土曜の午後と日曜と、祝日が休み。「夏休みは?」ときいたら「3日位かな」と。えっドイツ人て一ケ月位夏休みと聞いていたのに。「長く休むとお客さんが来なくなってしまうからネ」と言われて、我が身を翻って返す言葉がない。
 「日本でブームの宅配は?」 と聞くと、「やっていない」という。「肉や魚が一切ないのはなぜ」と聞いてみると、「ボクもヴェジタリアンだし、お客さんも半分位はヴェジタリアンだからおく必要を感じない」と言う。野菜にかんして、量り売りで問題はないのか聞いたけれど、質問の意味がよくわからないようで、なんでそんなこときくの?というかんじだった。
 お店の品揃えで目立つビン類は、ほとんどデポジット制になっている。穀物類や豆類、コーヒー、お茶類は種類が非常に多いが、これらはパックされている。ヨガやいろんなクラスのチラシがたくさん下がっていたのにはなんだか親しみがわく。
 レジカウンターの後ろの棚にはパンがむきだしでずらっと並べてあり、お客さんには一本又は半分に切ったりして、藁半紙のような紙に包んで渡す。レジのとなりのショーケースにはチーズが数種類入っていてこれも注文に応じてカットして紙に包む。この中には持ち帰りのケーキや、玄米の太巻きのようなものもあった。が日本で流行りかけているパック入りの惣菜のようなものは見当たらず、冷凍庫もアイスクリームが入っている小さなものだけだった。
 ショッピングバッグは、布製、紙製、ビニール製すべて有料のようだったが、ほとんどの人がなんらかの袋を持ってきている。レジカウンターの下、お客さんが立つ側は棚になっていてそこに袋やあき箱(これは無料)が置かれていて、お客さんが自分で入れるようになっている。
 とぎれることなくお客さんがくる。女性だけでなく、若い男性、お年寄りもいる。買物をしてお礼を行って店を出たら、もう夕方だった。


旅の訪問日記.2ドイツ

●『LOTOS 2』

ニュルンベルグの町のなかで、ひときわきれいな屋根つきの橋を渡ったところに、小さな広場があり、それに面して自然食品店『LOTOS 2』がある。古い建物の一階で、中に入ると天井が高く、広々している。入り口正面に野菜&果物、左手にレジがあり、店内の奥のコーナーにイートインスペースがある。
 店が広いので食品の種類も多いが、雑貨の種類と数も多い。シャンプーやアロマオイル、化粧品をはじめ、リサイクル文房具、ラッピングペーパー、木の食器、Tシャツやソックス、靴、サンダルなどもある。商品と雑貨の組み合わせ方も面白い。野菜売り場の近くにはタワシがあり、お茶やハーブティの隣にはポットや砂時計というふうに。


 食事ができるスペースには、立って食べるのに丁度よい高さのテーブルが3つ、それにあうハイスツールがいくつか。他の売り場との境はなく、店内が見渡せるようになっている。このコーナーと奥のキッチンは一部オープンの対面式カウンターで仕切られており、お客さんはキッチン内のスタッフに注文し、あとは基本的にはセルフサービスだ。キッチンがまたとても広い。
 『LOTUS 2』は11年、『LOTUS 1』は新市街にあり、21年も続いているという。1と2とで働いているスタッフは全部で15人、全員女性で週3~4日働いている。15人のうち4人はキッチン専門だ。
 定食のメニューはマカロニ等のパスタ類+ソース、又は御飯等の穀類+ソースといったもので、ソースには具が沢山入っている。値段は約650円。その他ピザが約350円。他にサラダ、ジュース類、お茶(ブラック~ハーブまで種類沢山)、コーヒー等がある。またレジで切り売りしているケーキ類や、ペィストリーも食べることができる。お昼の定食は一日に50~60食でるという。多いなあ。肉や魚はない。
 ここでもお客さんの男女比率は半々とのことで、やはり男の利用者が多い。日本とは全く違う。配達などはしておらず、やるつもりもないという。
 子供のアトピーについてきいてみると、ドイツでも深刻な問題になってきている。日本では米や大豆といった日本人の基本食糧でアトピーになるといったら、とても驚いていた。ドイツでは小麦と乳製品が多いという。「小麦を食べられない人には米を薦めているの」と。日本ではお米はアレルゲンのひとつだというと、またまた驚いていた。
 『ろばや』の写真を見せた。興味深げにあれこれ質問されるが、一番最初に言われたのは、「ビニール袋が多いわね」だった。ショック。ドイツでは、5年前と比べても、ビニール袋はどんどん減ってきているという、というより、減らしてきている。
 ジャガイモ、玉ねぎ、人参などの土付き野菜もバラ売りだ。「土のついたジャガイモや人参のカゴの近くにグローブがおいてあるけれど?」ときくと、「なかには土を嫌がる人もいる」けれど実際使う人はほとんどいないらしい。
 ビン類のリサイクルは、1リットル以上のビンはお店でリサイクルし、それ以下のものは町の分別収集へだすようになっているそうだ。『ろばや』では全く取り組めなかったことだ。
 このお店は女性スタッフのみということも関係あるだろうが、お客さんも「ハーイ!」と挨拶しながら入ってきて、気楽だ。女性が協力して、週に3~4日働くというのは私自身の事を考えてもいいと思う。けれどここでも、夏休みは、一週間位かなといっていたのは意外だった。






▲ロータス2のお店の前に広がる風景。彼女たちはこんなところで仕事をしているのじゃ。


●ミューズリー工場

 ベルリンでミューズリーを作っている工場を見学に行った。 ミューズリーというのはシリアル食品で、牛乳をかけて食べたり、あるいはそのままでお菓子に使ったりする。日本ではトウモロコシから作ったコーンフレークスが有名だが、最近は小麦がまるごと使われているミューズリーやグラノーラも少しずつみかけるようになってきた。朝だけでなく、おやつや夜食にもおいしいし、手軽に食べられる。
 麦類を160度のオーブンでトーストするが、このときエネルギー用のジーゼルエンジンの排熱を利用する。そのあと他の材料、さとう、はちみつ、ナッツ、ドライフルーツ(これらも、ほとんどオーガニック材料)などとミックスする。さとうやはちみつを使っているのはクランチーといって、一応区別しているようだ。アマランサス入り、アロエ入りなど変わったものあり、種類はかなりある。このミューズリーはドイツ中に出荷しているほか、イタリア、スイスに少し輸出しており、いま香港からもひきあいがきているといっていた。

●ベジタリアンレストラン『CAFE OREN』

 たまにはレストランへ。CAFE ORENというその店はベジタリアンでコーシャーのレストランだった。コーシャーというのはユダヤ教の戒律に従って料理されたものという意味。
 表の入り口はシナゴーグというユダヤ教の教会で、横にまわって中に入っていくと中庭があり、そこにもテーブルが出ていてお客さんがいっぱい。レストランのなかは大きな窓があって、天井が高く、明るい雰囲気だ。
 メニューを見てやっぱりけっこう高いなと思ってしまう。サラダ、スープなどとメインを頼んだら一人20マルクはする。短期旅行者ならいいかもしれないが…。結局、飲みものを二つとオリエントエクスプレスというセットメニュー、17マルクを“ひとつ”頼んだ。かなしい。中近東風料理盛り合わせというところで、ファラフェルだの、フムス(ゴマペーストのようなもの)だのといったものがメインで、サラダもけっこうたっぷりある。二人分としてもまあまあの量で、二人で一皿でよかった。味はすごいとは思わなかったけれど、ゆっくりしたレストランで食べると気分転換になる。


旅の訪問日記.3ドイツ

● BIOのパン屋さんとパンの作り方

ドイツのパンは美味しい。小さくて丸くて皮がぱりっとしているゼンメル。見ためほど中はすかすかではなく、ナイフで横に切りバターやジャムをはさんで食べる。黒パンは灰色がかった茶色といった感じで、薄く切って軽く焼いて食べると、ちょっと酸味があり、そのままでも、サンドイッチにしてもあう。
 自然食品店のパンはやはり普通のものより味が複雑でおいしいと思う。そこでベルリンの、BIOのパン屋さんに見学に行った。
 お店の名前は『BROT GARTEN』という。白い壁に赤と白の日除けテント、外にベンチがある、かわいらしいお店。店に入って右側が細長いレジカウンターになっていて、そこに菓子パンやピザ、ケーキなどがガラスのケースの中にならんでいる。そしてロールや黒パンはカウンターの後ろの木造りの棚にずらっと並べられている。入って左手は小さな部屋のようになっていて、野菜、果物以外の自然食品を揃えている。店の奥が工場。
 「案内するわ」と、共同経営者のひとりアネットが説明してくれる。まずは製粉機。オーストリア製で中は石臼、外側は、たぶん防虫の意味もあるのだろう、杉の木でできている。一日に使う小麦粉は(ライ麦、オート麦、その他も入れて)約500kgぐらい、一ケ月で12トン位になるという。スゴイ量だ。それを毎日使うぶんだけこの石臼式電動ミルで挽く。新鮮なわけだ。粉の粗さは石臼の巾で調整し、全粒粉のみしかできないという。ということは、ふすま、一番粉、二番粉などというわけかたはせず、全部を使う。日本では、まだめずらしい。
 小麦はベルリン近郊の長いおつきあいの『BIOLAND』認定の農家4~5軒から直接買う。「毎日小麦25kg入りの紙袋を何袋も何袋も持ち上げてはミルに入れるのよ」簡単に言うけど重労働なのだ。
 発酵は、ライ麦パンには“サワー種”を使う。ライ麦とお湯をこねて仕込み、5~6時間後に粉をたし、更に8時間発酵させる方法。小麦粉とライ麦の両方入ったパンには“バックフェルメント酵母”を使う。この天然酵母は日本でも使っているところがある。丸いロール類には“生イースト”を使っているそうだ。
 焼き時間は小麦粉のパンは30分位、ライ麦のみのは1時間~4時間かけて焼く。ライ麦のパンは時間をかけて焼くと甘味がでてくるという。パンの他にはケーキ、ピザ、ピタパン、ブラウニー、キッシュなどを作っている。
 一番人気のパンは、60%小麦、40%ライ麦のパンに5つのトッピング(ゴマ、ヒマワリの種、かぼちゃの種、ポピーシード、オーツ)をのせたもので、一辺が25cmぐらいの直方体のパン。1本が、約1kgで400円強。日本の普通の食パンは1斤約400g位で、このドイツパンの重量感はどこか頼もしい。
 ライ麦100%のパンは小さくてもっと黒い。小麦アレルギーの人もライ麦パンなら食べられる。ライ麦の入った酸味がある独特の味のパンは、海外にでたドイツ人が最も食べたい、なつかしいものなのだそうだ。
 保存はワックスペーパーや、紙に包んでおけば普通で1週間~2週間位は大丈夫という。ビニール袋なら穴をぶつぶつあけて通気性をよくしてしまう。冷凍はいいけど冷蔵はだめだそうだ。
 このお店は10人の共同経営方式。毎週の会議で、運営方法や仕事の分担などを決める。以前はこういう共同体方式の店等は沢山あったが、今も続いているところは少ないらしい。「話あいが多くなり大変だからね」とアネットは言っていたけれど、「だれか一人のボスの下で働くのではない、私もボスだというのはいいものだ」とも感じているようだ。事前に話あえば長期に休みをとることも可能で、これはうらやましいシステム。もちろん休暇中は賃金カット。年収の1/12がボーナスで、休みが多いと、ボーナスも減ることに。
 お店ではパン職人になるための研修生を受け入れていて、「日本人はどう?」ときいたら、「給料をだせるかどうか、長期間受け入れられるかどうかは会議で話あわないといけないけれど、条件によっては不可能ではない」という。だれか修業して日本でBIOのドイツパンのお店やらないかなあ
 外のベンチで大きなケーキを食べていたお年寄りの女性が、かたことの英語でしきりに話かけてくる。どうもここの店はいいものを作っているということらしい。私がビオだからね、というとうれしそうにうなずく。
 自転車に荷物をいっぱいつんだ若い女性2人がきて、店に入っていく。それそれパンを1本づつ買って、紙につつんだまま持参のタッパーにしまい、自転車の荷物に入れている。これから3泊のキャンプに行くための食糧だそう。近くの駅から電車に自転車ものせ、途中からは自転車で行くという。しょっちゅうこんなふうに出かけるのだろうか。気取らない楽しみ方を知っているようでちょっとうらやましい。
 タッパーの中にパンを入れて持ち歩く、というのはよく見かけるスタイルだ。パンの他にナイフやバター、ジャム、ペースト、チーズ、ハムなどが入っていて、好きなところで広げてお弁当にしている。
 私もピザを買って外で食べる。しっかりした生地に野菜が沢山。美味しいうえに、おなかにたまる。お店の人にお礼を言って帰る。どこのお店も、なんでこんなに親切なのか、不思議なくらいだ。忙しくてもフレンドリーに対応してくれる。帰りがてら『りすや』にでも寄って行こうか。


旅の訪問日記.4ドイツ

フライブルグで、“エコメッセ”に行った。エントランス付近にはリキシャスタイルの乗り物や、子供のためのメリーゴーランドがあり、メインストリート沿いには、環境団体や企業の展示テントが並ぶ。ソーラーパネルやソーラークッカーの実演もある。展示ホールは大きく分けて、食品館、ウエア館、ハウス館があった。外の広場にはいろんなお店が出前に来ていた。
 面白かったのはウエア館。ナチュラル衣服と雑貨が並ぶ。服は下着やTシャツはもちろん、セーター、スカート、シャツなどいろいろな製品がある。色は染色していないコットンそのままのものが多い。全部がオーガニックというわけではないようだ。U.S.A.製品が多く、他にフェアトレードの中南米産のエスニック風のものもある。
 靴もある。健康サンダルのようなものの他に、とてもきれいな染色を施したものを見つけた。一般品とどこが違うのかきいてみたが、言葉の壁があって細部まではわからないが、染色の課程で有害なものを使っていないということと、靴底が100%ゴムだということはわかった。
 ロウソクもいろいろな種類がある。ドイツの自然食品店ではどこでもロウソクを置いている。それだけ暮らしのなかで必要度の高いものなのだろう。蜜蝋のものは種類も形も様々。パーム油と紙で作ったロウソクもあった。食品用の着色料でマーブル模様の色をつけ、アロマオイルで香りをつけている。種類が多く、きれいだ。3本で800円弱。その他、ゾーリンゲンのカトラリー、木のチーズボードやワインラック、小麦挽き器など、木のものが多く、愛着がもてて長く使えそう。
 食品館は健康食品やハーブティーなどが多くイマイチ。ハウス館には木の家の模型、断熱材の工夫やコンポスト、薪ストーブ、ソーラーパネル等いろいろな展示があった。興味はあるけれど専門的すぎて何を見て、何をきけばいいのかわからない。ただ他のどこよりも見物客は多く賑わっていて、注目されているようだった。
 外にでて何軒かある青空カフェでジュースとビリヤニを買って一休み。ビリヤニというのはインドの炊き込み御飯のようなものだが、スパイスがきいていておいしい。
 いいな、と思ったのは、お皿のデポジットを一皿につき約300円払い、食べ終わると返却口へ持っていき、返金してもらう。これはカフェ全体でやっていた。ジュースやビールはグラス、コーヒーもマグカップ入りで、これらにはデポジットはないが、やはり返却口に持っていく。日本でもお祭り等で、食べものの容器をどうするか、というのはいつも問題になる。各お店ごとに容器を用意するのは大変だけれど、一緒に皿を使いまわせばよいかも。
 ドイツでは持ち帰りの食べものも多いが、漂白していない紙の皿や容器が多い。結構分厚いので汁があっても少しの間なら平気そうだ。また自分で用意してきたタッパーにいれてもらっている人もみかけた。ビニールをなくそう、ごみを減らそうということの具体的なヒントをもらった。

●私の感じた、ドイツの自然食品店の特徴

1. 多い、量り売り
 野菜や果物をはじめ、チーズ、粉類、穀類、豆類、液体せっけん、シャンプー、等どこでも量り売り、あるいは詰め替えがある。とくに野菜類の量り売りは当然のようで、「お客さんがいいものだけを選んだりしないの?」と聞いてみても、穴があいていようが、形が悪かろうが、味がよければ問題ないとのこと。なるほど。
2. リターナブルビン
 ビンを沢山利用している。買うときにデポジット代を上乗せして払い、返却時にその分を返してもらう。調味料やワイン、ジュースはもちろん、牛乳やヨーグルトもびん入り。デポジット代金は、ものによるが、0.3~0.5マルク。ある卸しによれば、ビンのリサイクル率は80%という。▲パン屋で原材料を6ヶ月間保存している。トラブルの際の再検査可能という。ここまでやるかいな。


3. 簡易包装
 量った野菜類は、紙の薄い袋に入れる。パンはむきだしで並べてあり、1本または半分を紙に包んで渡す。チーズも、やはり紙に包んで渡す。買物袋は各自が持参。紙の手提げ袋、布の手提げ袋などもあるが、すべて有料。

4. 利用者はベジタリアンの人が多い
 肉・魚類がほとんどない。冷蔵庫などの設備にお金がかかるということもあるが、店の人や利用者に、肉類はできるだけ食べない方が、体のためにも、地球全体のためにもいいという考え方のベジタリアンが多いのも理由。「自然食品店に、肉をおく必要はない」らしい。

5. イートインコーナー
 店内にちょっと食べられるコーナーがある。店内で調理したものや、パンやケーキとドリンク等がある。こういうコーナーは、「店のものの味や調理法を知ってもらううえで、大切」と言う。持ち帰りの惣菜などもあるが、いわゆるすぐ食べられるパック入りの惣菜や、冷凍食品などはあまり見かけない。
6. 利用者に男性客が多い
 どの店にきいても利用客の「男女の比率は、半々」という。見ていても確かに男性、それも幅広い年齢の男性が来ている。「カップルの場合、大抵は2人とも働いているから、時間のあるほうが来る」という。男の人が来れば、ビン類など重いものを持って帰るのも苦ではないのかもしれない。配達をやっている店が少ないこととも、関係があるかも。

旅ノート.1ドイツ

●ベルリンでの食事

朝食は、宿のキッチンでお茶を飲み、パンをトーストし、ヨーグルトも食べる。お昼用にパンにチーズやジャムをぬってサンドイッチにして持っていく。きゅうりを塩もみして持っていったり、人参のスティックや小さなトマト、りんごやバナナなどを持っていくこともある。
 外では“ドネル・ケバブ”をよく食べた。宿の近くのケバブ屋は、お惣菜をバットに並べておいてあり、店内で食べられるようにもなっている。チキンのまるごとや、サラダ、豆の煮たもの、なすの挽肉づめなどいろいろあり、どれもけっこう美味しい。

●『マルシェ』

フランクフルト、ベルリン、ミュンヘン、と大きな町にあるチェーンのカフェ『マルシェ』。セルフサービスなので安いのと、野菜のバリエーションが多いのでよく利用した。
 サラダ類は、皿の大きさで値段が決まっているので、取る時にコツがいる。中皿(6マルク位)をとり、重いものから慎重につんでいく。ポテトサラダやマカロニサラダ、もやしサラダやビーツもある。生野菜はカサがおおくても量としては少ないので、なるべく炒めたり、茹でたりしてあるものをとる。最初は山盛りにするのはみっともないと思ったが、周りをみると芸術的な積み上げかたをしている人が沢山いるので、見習ってだんだんてうまくなった。ただ食べるときにぐちゃぐちゃになってしまうのが難。
 パスタやピラフのようなものもあるし、肉や魚もあり、目の前で調理してくれる。パン、ケーキ、フルーツやジュース、ビール、コーヒーもある。値段が表示されているので、ドイツ語がわからなくても検討がつくのが助かる。二人で一食20マルク以内を目指す。
 私の大好きなルーバーブのケーキもあった。10センチx5センチ位の大きさで一つ4マルク。ルーバーブは最近日本でもみかけるが、形はふきに似ていて茎の色は赤。そのままでは酸っぱくて食べられないが、加工してジャムやパイ、ケーキにする。酸味と独特のくせがある味が、とてもおいしい。
 禁煙席も多いし、外にテーブルを出しているところでは、まわりを行き交う人を見ながらゆっくり食べられる。

●ドイツのカフェ

ドイツのカフェやレストランでいいと思うのは、ビールやワインなどのアルコール飲料とコーヒーや紅茶が同列なところ。飲む人、飲まない人と場所をわける必要がなく、自分の好きなものを頼める。ワインとケーキという組み合わせもありだし、相手がビール、私はコーヒーをもらうというのが気兼ねなく成立する。
 カフェで集う人を見ていると、ビールを飲む人は、ビールだけを頼み、つまみのようなものはあまり見かけない。ビールもぐいぐい飲むというよりちびちび自分のペースで時間をかけて飲んでいる。
 ドイツのコーヒーはどちらかというと、薄く、沢山飲むというタイプで、とくに美味しいという印象はなかった。
フェアトレードのマークの入ったコーヒーや紅茶は、一般のスーパーにも何種類かは置いてあり、買う気さえあればどこででも手にはいるのが便利ではある。

●レープクーヘン

町中のカフェで頼んでみた。4本のセットが約500円。よくあぶられたソーセージ4本に山盛りのザワークラウトか、マッシュポテトの小山がつく。パンは別料金。
 「大人の小指ほどの小さいソーセージ」とガイドブックに書いてあり、その小さささが珍しいらしく、それゆえに「4本、6本、8本」と本数で注文するのが特長らしい。しかしどう見ても、日本のフランクフルトソーセージと同じ位の大きさ。ドイツ人は巨人なのか。

●朝食

ドイツの宿(ペンション)は朝食付きが多い。パンと、個別包装のバターやジャム、チーズ、レバーペーストなどの盛られた皿と、飲みものはコーヒーか紅茶。たまにジュースがついたり、スライスされたチーズやハムがでる。パンはたいていぱりっと皮の堅いロールが一人2個。それを横にスライスして間に好きなものをはさんで食べる。コーヒーはきっちり2杯分。
 ビュッフェスタイルの朝食つきの宿にあたると、とてもうれしい。パンもロールの他に黒パンもあるし、シリアル、フルーツ、チーズ、ハム、ヨーグルトなどが何種類も並べられ、コーヒーも紅茶もたっぷり。こういうときは、お昼のぶんまでもらっていったりする。
 ドイツで泊まった宿代の平均がダブルで約5500円。他の国を旅行したあとでは、これはかなり安かったのだと気づいた。とくに朝食がついていることを思えばなおさらだ。


旅ノート.2ドイツ

●ザワークラウト

 メイン料理の脇に、山のようについてくる、キャベツの漬物。キャベツの酢漬けと書いてある本もあるが、正しくはキャベツを塩づけにして、発酵させてつくる。ずーっと昔、はじめて食べた時はにおいが気になって、好きになれなかったが、今はそれも好きになった。例えて言うなら、きゃべつの糠漬け、それも古漬けを温めたようなもの。
 このザワークラウト、ドイツの固くて、生食に向かないキャベツを使わないとうまくできないらしいが、日本のでもそれなりのものは作れる。
 作り方は、千切りにしたキャベツに、キャベツの重量の2.5%の塩をまんべんなくまぶし、瓶、ポットなどに漬けこむ。好みで粒胡椒や赤トウガラシ、等を加え、ローリエの葉も2~3枚加える。
 表面をキャベツの外葉などで覆い、さらにビニールで瓶ごと覆い、上から木蓋と重石をのせる。重石はキャベツと同量。18度位の温かいところにおき、発酵させる。上がってきた水はすくいとって捨てる。もしかびが生えたら、漬け汁を煮たたせ、瓶を洗いもういちど漬けなおす。
 一月位で食べられるので、酸味をみてよければ小分けして冷蔵庫へ。食べるときは一回水で洗い、しぼってから、豚肉、ソーセージなどと煮込む。
 発酵食品は腸を元気にしてくれるし、とくに肉類を食べると増える腸内の悪玉菌と戦うのに役立つ。最近は日本でも、オーガニックザワークラウトの瓶詰めを見かける。

●ビルケンシュトックのサンダル


ミュンヘンで、ビルケンシュトック社のサンダルを買いに行った。しっかりした底と足裏をマッサージしてくれる突起が特徴だ。前回長期旅行をしたときには、スイス製サンダルをはいていて、とても歩きやすかったのだが、帰国前にこわれてしまった。次は本家本元、ビルケンシュトックのを買おうと思ったのだが、日本で買うと結構するので、なかなかおもいきって買えない。それに何年か前からこの手のサンダルがやけに流行りだして、どこにでもあるようになってしまい、ちょっと面白くなかったので、買うのを先伸ばししてきた。
 マリエン広場の裏手にある小さな店に入る。買うのはバックベルトがあるごくシンプルなやつに決めていたので、サイズをいってみせてもらう。色は茶と黒があり、ちょっと迷ったが、黒にする。サイズ35でぴったり。
 ビルケンシュトックの靴は、下の突起が特長だから、裸足ではくのがベストだという。また足をのびのび広げられるデザインだから、見かけはスマートさのかけらもない。サンダルはまだいいけど、靴ともなると不格好で笑えるほど。
 けれど裏のゴムがすりへったら取り替えられるのはもちろん、本体のコルクの部分まで取り替え可能なので何年も使えるときくと、ドイツの靴だなあと思う。「ドイツに行ってこのサンダルを買うのが夢だった」と店の人に言ったら、笑っていた。102マルク(約8000円)で文字どうり満足。このサンダルのフィット感は想像以上だ。町を歩くとき、スニーカーよりも断然歩きやすい。

●牛乳といえば低温殺菌牛乳

ヨーロッパのスーパーでは、牛乳は冷蔵庫と常温の棚の2ケ所に置いてある。冷蔵の牛乳は「パスチャライズ」と表示されていて、これは低温殺菌の牛乳だ。常温の棚にあるのは超高温殺菌(滅菌)牛乳で、いわゆるLL(ロングライフの略。常温で長期保存可能)牛乳だ。値段は低温殺菌牛乳のほうが高い。
 日本の牛乳のほとんどは120度か130度で2~3秒殺菌されたものだ。この温度はLL牛乳とほぼ同じ。なのになぜ日本ではそれを冷蔵庫に入れて流通させ、いかにも生鮮品のように売るのか。ひとつには、中身はLL牛乳なのだが、アルミはくなどでぴっちりおおった専用の紙パックに入れていないため、雑菌が入りやすく、冷蔵で流通しなければならないから。ではこれらの牛乳を専用のパッケージに入れて、LL牛乳として売れば、流通の手間も省けていいと思うが、そうすると、新鮮なイメージがなくなってしまうのが本当の理由だと思う。
 生乳を120度といった超高温で殺菌してしまうと、腐敗菌等の悪い菌だけでなく、人間にとって有用な乳酸菌も含め、すべての菌を殺してしまう。そのうえ牛乳といえばカルシウム、というほど肝心のカルシウムも加熱によって変化し、吸収されにくくなる。またビタミンも破壊されるなど、栄養的にはいいことがないし、牛乳の風味も変化してしまう。
 低温殺菌は62度~65度で30分かけて殺菌する。この方法だと悪い菌のみを殺し、乳酸菌などは生きていて、生乳の栄養も風味もそのまま残っている。けれど、生乳を低温殺菌処理だけで流通させるためには、もとの乳の質がいいことが条件だ。乳牛が健康なこと、牛舎が清潔なこと、絞ってすぐ工場に持っていけることなどがとても重要だ。日本で超高温殺菌の牛乳が主流なのは、これらの条件を満たす質のいい牛乳が少ないから、と考えられる。
 要するに日本では、超高温殺菌の牛乳をいかにも生鮮品のようにして売っているが、それは牛乳の質がよくないのを、殺菌温度でごまかし、パッケージもロングライフ用にすればながもちするのに、わざわざ雑菌の入りやすい紙パックにするという2重のごまかしをやっているのだ。低温殺菌の牛乳は、質のうえでも優れているし、菌が生きているので、紙パックにつめたあと雑菌が入ってきてもそれと戦える。本当は超高温殺菌牛乳より日持ちする。(一番長くもつのは低温殺菌で瓶入りのもの)
 だからヨーロッパでの牛乳の扱いは、とても当然のことだ。生鮮品と呼べるのは低温殺菌の牛乳で、栄養的には劣るけど、買い置きできて便利なのがロングライフ牛乳だ。日本でも少しづつは低温殺菌牛乳を見かけるようになってきているが、主流は依然として超高温殺菌だ。これを日付けを気にして買うなんてこと、いつまで続くのかな。

 

▲スイス


旅の訪問日記.5イタリア 

●エミリオ吠える

ヴェネチアの自然食品店『Frutta e Verdura』のEmilioは、伝えたいことがたくさんあるみたい。「健康に生きていくのには野菜と果物が一番大切。なのにみんな健康食品の店で、ハーブティーだのビタミン剤だのに大金を使い、BIOの店の野菜は高いとかいって買わない。本当におかしいよ」「アトピーの子供をもつ母親なんか、その子供のためだけにうちでズッキーニ1本とか、トマト1個とかを買う。だのに健康食品の店ではハーブティーとか薬とか大量に買う。なんで自分を含めての食事が大切と気づかないのか」同感だ。
 「ペットボトル入りのミネラルウオーターは、危険なんだ。運送中も、店でも太陽にがんがんあたって、プラスチックの成分が溶け出す。水でミネラルをとろうなんて、それより野菜を沢山食べるほうがいいに決まっている。ペットボトルなんて、ゴミになるばかりでいいところが何もない」
 さらにイタリア社会とマフィアについて、「大きな会社はみんなマフィアとどこかでつながりがあるんだ。今の首相のベルルスコーニは、大きなスーパーやテレビ局、新聞等のメディア関係で、沢山の会社を持っている本当に悪いやつなんだ」けれど、共産党や緑の党もあるのでは?「彼らは数をふやすことばかりに熱心で、環境なんかの政策がない。だいたいファーストフード食べて、プラスチックボトル入りの水なんか飲んでんだから、話しにならない」
 「店を始めて10年だけど、毎日朝からずーっとここにいるのがいいとは思っていない。自分の勉強や家族のためにもっと時間を使いたいよ。だけど、お客さんには、いろいろ伝えたいことがあるんだ。話すのはたいへんさ。何か変わるのには百年ぐらいかかるよ」今どき珍しい、小うるさい親父のようだけれど、きっと彼に言われたことをいつか思いだして、いろいろ気がつく人が出てくると思う。小さなことでも、それが社会を動かしていくかもしれない。自然食品店の役割を考えた出会いだった。
▲Frutta e Verduraの店頭。日本茶、みそ、しょうゆ、たくあん、梅干しなどもある。冷蔵庫はない。むこう側は水路。時々ボートが通る。 


●フィレンツェの自然食品スーパー『Natura Si』

(Yes, Naturalと言った意味)

 チェーンの自然食スーパーで、イタリア中に9店舗ある。明るく整然とした店内はスーパーマーケットそのもの。冷蔵庫や冷凍庫も大きく、雑貨&化粧品類の売り場や、本の売り場も広くとっている。イタリアの自然食品店、メーカー、卸しなどを網羅したガイドブックや、“ビオアグリツーリズム”のガイド兼地図もある。
 ここも野菜は全て計り売り。自分で“ビニール袋”(ドイツは紙袋)にいれる。パンやチーズは切り売り。穀物や豆もバラ売りで、容器も、中のスコップも木製。また自動粉挽き器があり、自分の好みの麦類を好きなように挽くことができる。
 営業時間が面白い。月曜は午後3時半から、夜8時まで。火曜~木曜は途中に昼休みが2時間半。金曜~土曜は昼休みはなし。日曜と月曜の午前中は休みで、夏休み等はなし。昼休みがあることに、イタリアを感じる。
 お客さんはどんな人が多いのかと、店長のMarcoに聞いてみると「女性が多い。イタリアでは家事は女性という考えが一般的だから」利用者の特長は「お金持ちの人と、教育程度の高い人が多い」という。
 冷凍庫や冷蔵庫が大きいのに、「肉・魚がほとんど無いのはなぜ」と聞くと、「一部パックいりのソーセージ、ハム等はあるよ。でも自然食の人は完全にベジタリアンでなくてもベジタリアン志向が強いので、肉をあまり買わない。最近ベローナの店で、店内に精肉コーナーを作ったけれど、あまりうまくいってないみたい」とのこと。
 そのかわり、TOFU製品は多い。オリーブをはじめ、いろいろな野菜が入ったもの、それを揚げてあるもの、これが豆腐?みたいなのがいっぱい。「TOFU製品は売上の10%を占める必需品で人気商品なんだよ」スゴイ。
 醤油、味噌をはじめ海草類、麺類、梅干し等けっこうな日本食 がそろっているが、「特定の人が買うだけで、あまり一般的じゃない。売上の2%位かな」という。彼もあまり興味がないようで、調理方法などもよく知らないという。
 帰りに、グループで作ったらしいイタリア語の自然日記帳を頂いた。時代に合ったお店という感じだった。


旅ノート3スペイン

●バル

 スペインの一日はバルではじまり、バルで終わる。まず朝食に行く。カフェ・コンレチェとクロワッサンかトスタダを頼む。カフェ・コンレチェはイタリアのカプチーノと同じ、エスプレッソコーヒーに泡立てたミルクをのせたものだ。スペインのほうが、店のあたりはずれがあり、たまにひどくまずいところがある。イタリアではクロワッサンは紙ナプキンでつかんでそのままくれるが、ここでは皿にのせナイフとフォークがついてくる。“トスタダ”というのはトースト。パン焼き器がニクロム線の上に焼き網をのせたようなやつで、それで片面づつ焼く。人間のやることだから、時々焦げていたりたりする。トスタダには好きなものを塗ってもらうけど、オリーブオイルがあるあたり、スペインに来たなと思う。コーヒーとパンで約200円だ。
 お昼前ごろ、暑さを避けてバルに行ってひと休み。ワインの炭酸レモネード割りとか、セルベッサ(ビール)、ミネラルウオーター、ちょっと高いけどしぼりたてのオレンジジュースもあり、迷う。お腹がすいていたら、カウンターの上に並ぶ、いろいろなお惣菜料理から、好きなものを頼む。これが“タパス”で、直径10センチぐらいの小皿に盛られてでてくる。ポテトサラダやスペインオムレツなどを頼むと、お腹にたまる。ビールはミネラルウオーターより安いことが多く、グラス一杯100円しないところも。オレンジジュースが300円位。タパスは野菜、ジャガイモ類は安く300円しない位。魚貝類は少し高い。
 夕方涼しくなってから散歩に行く。行く前にちょっとバルに寄ってカフェ・コンレチェ。甘いケーキなどがあるとつい頼みたくなる。夕食は、昼に定食を食べるせいか、沢山は要らないので、バルに出かけて行って、飲みものとタパスを幾皿か、あるいは“ボカデイジョ”(サンドイッチ)を作ってもらう。
 こういう便利なバルが町中に沢山ある。バルで働いている人はほとんど男性で、愛想がいい。二度めに行くと顔を覚えているらしく、単語を並べただけのスペイン語で注文すると「ムイ、ビエン(ベリーグッド)」なんて言って、さりげなく何かをサービスしてくれる。子供から大人まで、いつでも気軽に出入りできるこんな空間、日本にも欲しい。

●スペイン時間

 スペインに行ったら、まず食事時間を現地時間にあわせようと、ガイドブックに書いてある。食事時間だけではなく、労働時間も違うようだ。朝7時はまだうす暗く、人通りも少ない。町に活気がでて仕事が始まるのは9時頃。そしてお昼2時から4時半位まで昼休み。個人商店だけでなく、郵便局やオフィスも休みだ。その間にたっぷり時間をかけてお昼を食べる。昼寝するといわれるが、皆が寝ているわけではない。食べて飲んで、しゃべって長いお昼を楽しんでいるようだ。それからまた仕事にもどり、夜8時ごろまで働く。だから夕食は遅い。10時過ぎになる。マドリッドで泊まっていた宿では、子供も一緒に、夜中の12時ごろになって食べていた。それで、朝は遅いのか。
▲マドリッドのマクロビオテイックレストラン
『La Biotika』にて

●大満足、お昼の定食

 スペイン人の昼休みは2時過ぎからなので、混雑を避けてちょっと早めに行かねばならない。店の外に本日のメニューが張り出されてい るので、何軒かみて、値段などをチェック、人が多そうなところを選ぶ。テーブルに案内され、メニューを持ってきてくれる。ここまでは早いが、注文をとりにきてくれるまでがけっこう長い。かなり広い店でもウエイターは一人しかいないことも多く、忙しいのだ。(他の国でも日本より少なく感じた)
 本日の定食は、前菜、メイン、デザートで、それぞれ選択肢があり、パンと飲みものは大体料金に含まれている。飲みものはワイン、ビール、サングリア(赤ワインにフルーツをいれて作ったカクテル)、ミネラルウオーター等から選ぶ。ワインを頼むと一本でてくる店もある。まわりの人を見ていると、ワインを水で適当に割ったりしながらどんどん飲んでいる。
 前菜はパエジャ、ガスパチョ、サラダ、生ハムとメロンなどからひとつ。“パエジャ”か“ガスパチョ”か、どちらにするかで迷う。日本ではメインのパエジャが「前菜」というのも驚きだ、これはスペインの炊き込み御飯風のもので、出来は店によるが、具(貝類、魚、チキン)が多くて、ぱらっと炊けていると美味しい。
 ガスパチョは冷たいトマト味の野菜スープ。このスープにいれる浮き身、角切りのピーマン、玉葱、トマト、クルトンなどを、別皿に沢山盛ってだしてくれると「やった!」と思う。パエジャも皿に大盛りだし、ガスパチョもどんぶり一杯というぐらいあるので、一皿めだけでもけっこう満足する。
 メインは鶏か豚のソテー、魚のムニエル、スペインオムレツなどがある。とくに美味しいと思ったものはないが、鶏肉をたのむとモモ肉が一本でてきたり、魚をたのむと大きい白身の魚が一匹デーンとでてくることもある。反対にすごく小さな、薄いスペインオムレツがメインだと、ちょっとがっかりする。つけ合わせに、フライドポテトがついてくる。
 デザートは、プリン、アイスクリーム、フルーツあたりが一般的だ。一度「焼きリンゴ」があって頼んだが、やはり夏の暑い時に食べるものではなかった。と、ここまで、全部食べ終わるのに1時間強。スペインの人はこのあとカフェを頼んで、まだまだしゃべるようだ。で、お勘定は一人、800円から1000円位。ほんとうに安い!


旅ノート4フランス

●旅には「もんぺ」

 パリのシャンゼリゼ通り等、日本人の旅行客、とくに年配の方が沢山いると、じっとこっちを見られているようで、落ち着かないときがある。理由は、私のもんぺスタイル。このもんぺ、店をやっていたときから愛用していたが、今回旅行にもってきて、本当に重宝している。
 私がはいているのは、クロワッサンの店などで売っている一万円もするぶあつい藍染め品ではなく、田舎の町の洋品屋さんの店頭に並んでいる、高くても一枚二千円はしないやつだ。綿100%を選ぶのがポイント。矛盾しているけれど、なるべくもんぺっぽくないデザインを探すが、結局は似たりよったりだ。生地はだいたい薄いが、探せば多少厚手のもあるので、そちらのほうがお薦め。ちなみに、女性用のはポケットが前にくる。
 もんぺが旅行に適しているわけ、まずは、履いてラク。もともと労働着だから、立ったり座ったり、しめつけるところもなく、ラクチン。バスや列車に長時間乗るときはとくに実感する。次に、綿100%だから肌触りがいい。そのうえ暑いときの通気性はバツグンだし、寒い時は下にスパッツ(絹のスパッツだと保温力が高く、とくにお薦め)を重ねてはけば、東京の真冬位までは問題なし。最後に洗濯がラク。これは夏にはとても有難い。小さな洗面台でも充分洗え、夜寝る前に洗って干しておけば、翌朝乾いている。ジーンズやチノパンツは、洗うのも大変だし、乾くのにも時間がかかる。
 バックバックでの旅行は、荷物をいかに減らすかが重要だ。とくに衣類はかさばるので考えどころ。もんぺ、プラススパッツの組み合わせは、この面でもよかった。洗濯にも耐えて、丈夫でながもち。問題は、もんぺのもつイメージと、トラディショナルなプリント。イメージはさておき、デザインのほうは、エスニックパンツと見れば、けっこういいじゃないか、思うのは私だけだろうか。後で気づいたのだが、裾のゴムをとれば、もっと普通に見えたのに。これからも旅行には、もんぺ。

●カフェ

 テレビや映画でみる、パリには必ずカフェがうつっている。昔読んだ本には、フランス人にとって行きつけのカフェは、自宅の居間のようなものだと書いてあったので、楽しみにしていた。ところが、スペインから夜行列車でパリにつき、町にでる前にちょっとコーヒーでも飲もうと、駅のカフェに入り、値段を見てびっくり。17フラン(425円)とある。やっぱりこういうところは高いんだなと思い、やめてそのまま地下鉄に乗った。
 さすがにお腹もすいたので、宿の近くのセルフサービスのカフェに入り、「コーヒーはいくら?」ときくと9フラン(225円)というので、まあいいかと思い、カフェオレとクロワッサンを頼んだ。支払うだんになって、両方で20フランという。「えっ。なんでそんなにするの?」コーヒーは9フランだけど、カフェオレは12フラン、そしてクロワッサンは8フランという。最後まできかなかった私も悪いが、これで500円なんてなんだか、詐欺にあったみたいだ(チョットおおげさかな、でもその時の実感。セルフサービスでこの値段はないよね)スペインでは、この組み合わせなら大抵は200円で収まるのに。が、これでパリのカフェは高い!とインプットされたので、以後外でコーヒーを飲むのはやめ、カフェに入ることもなかった。

●ベジタリアンレストランinパリ

 パリのオペラ座の近くにある『カントリーライフ』は、キリスト教系のベジタリアンレストラン。木をたくさん使った店内は、やわらかな照明で照らされ落ち着いた雰囲気だ。入り口から一階の真ん中あたりまでは、自然食品コーナーになっていて、野菜から雑貨まで、ひととおりのものが揃っている。
 一階の半分と一部吹き抜けの二階がレストランスペース。一人65フラン(約1600円)で食べ放題のビュッフェ方式(飲みものは別)で、先に支払いをする。お昼時ということもあって、持ち帰りの人も含め(その場合は容器の大小で値段が決まる)店内は混んでいるが、席数も多いし、空間をゆったり使っているので、ゆっくり食事ができる。料理の種類もたくさんある。その日は蕎麦の実を炊いたものとパスタが主食で、それにかけるスープやソースが2~3種類。パンとパンにつけるひよこ豆ペースト、ファラフェルという豆のコロッケ、サラダバーに、デザートの果物。
 あれこれ試してみたいので、少しづつ、何度も取りに行く。まわりの人を見ていると、まずはスープを食べ、次にサラダを取りに行き、食べ終わったらメインへと、順番に取ってきている人が多く、なるほど、と思う。その一方で、アーティチョークだけを、何皿も何皿も食べて帰って行く人もいて、見ていて面白い。この店はビジネスマン&ウーマンのお客さんが多いようだ。
 メニューの都合もあり、すぺてをオーガニックにするのは難しく、素材の50~80%位という。でも味つけもあっさりしていて、どれもおいしい。野菜をたくさん食べると、何だかわからないけど、「あ~安心」と思う。私だけ
かな。


旅の訪問日記.6オランダ

●DEMETER認定の農場

オランダ北部の村にある、有機農場に行った。納屋の一部を改装したお店には野菜を中心に、果物、花束、焼きたてのパン、牛乳、ヨーグルト等の乳製品の他に、ジャムや蜂蜜などが並べてあり、お客さんが途切れることなく来ている。ここで経営者のインゲに話しをきくことができた。
 農場は27年前からはじめ、働いているのは、インゲと彼女のお連れあいと子供の、家族3人プラスお手伝いの学生が1人。農場の広さは15ヘクタールと広い。
 生産品目は、ビーツ、人参、キャベツ(紫と白)、ケール、セロリ、ホーレン草、玉葱、ジャガイモ、小麦等。5月~9月は温室でトマト、キューリを作る。温室内の加温はやってない。花も少し作っているという。
 出荷先は、『ODIN』というオランダの有機農産物の卸し(DEMETER認定のものとEKO認定のものを扱う)と、自分の店。
 生産量や生産品目、価格などは、『ODIN』内の北オランダ地方の有機農家60軒が集まって相談して決める。この60軒には、牛乳等を生産する有機の牧畜農家は含まれない。ただし有畜農家と、野菜クズをエサにとか、家畜のフンを堆肥にといった協力的な関係はあるそうだ。
 出荷するときに選別等はするのかきいてみたら、キャベツ、カリフラワーなどは重量でわける。サイズでわけるのは玉葱、トマト等。人参は200~400gのものと、それ以上、それ以下の3種類にわけるぐらいで、あまり厳密にはやらないという。
 「農業者の病気や自然の被害、虫の大発生や植物の病気等が起こった時に、収入の補償などはあるのか」と聞いてみると、特にそのようなものはないそうだ。ガラスの温室だけには保険がかけられ、風などで被害にあったときは補償をしてくれるそうだ。
 周囲の普通の農家との関係は、どうなのだろう。日本ではまわりの農家から、農薬をまかないから、うちに虫が来て困ると文句を言われたり訴えられたり、農薬の空中散布の問題がある。オランダでは有機農業のやり方への理解も進んできて、有機農家も尊重されているので問題はあまりないという。「虫がきて困ると言われる時もあるが、有機農家では虫や病気に強い品種を選んで育てているので、あなたもそういうのを作ればとアドヴァイスする」という。そして、「農薬をまくときなどは、うちにとんでこないように風のない日にやってね」と言っておくという。他人と自分は違うということを認めあい、話をすることで問題を解決する術を知っている人達だなあと思うと同時に、日本とのあまりの違いに驚く。
 このお店は89年からやっているそうだ。最初は町に店舗を借りたが、行き帰りの時間的負担や経済的負担から、1年ほどでやめ、それ以後農場の納屋でやっている。特に宣伝もしていないが、口コミ等で、ここ1~2年位で急に利用者が増えたという。
 店に並べる野菜はほとんど自分の農場のものだが、卸し先の『ODIN』から仕入れているものもある。それぞれ生産者が明記されていた。パンは近くのBIOの店から持ってきてもらい、花は自前のものと近くの有機栽培の花農家からのものとがある。花があるのが珍しいが、色がきれいで、店が明るくなる。
 「日本でのお店の売上はどう?」と聞かれたので、小さい自然食品店が、やっていくのは大変だといったら、「マクロビオティックの国なのに、自然食品店がなぜ大変なのかしら」と不思議そうだった。ウ~ン!
 畑や花畑、ガラスの温室(ビニールハウスではない)などを見学。広々とした土地をゆったり使っている。いろいろな種類の花がぼうぼうと元気に生え、色どりを与えている。ガラスの温室の外に大きな雨水を溜める池があり、温室内の水をまかなっていた。
 9月のはじめに畑にあるのは、ケール。オランダではファーマーズキャベツというらしい。日本では青汁用の野菜としてしかしられていないが、ビタミン類が豊富な結球しないキャベツの仲間で、緑色が濃い。固いので生食はできないが、きざんでスープにすると美味しい。冬の寒さにも耐えて、いよいよ美味しくなるという。その日一緒のオランダ人の友達が、以前日本に来たとき、ケールのフリーズドライを一杯持ってきていたことを思い出した。オランダ人にとって身近な野菜なのだろう。
 また、根を食べるセロリというのも、はじめて見た。普通のセロリよりも小ぶりで、もちろん茎も、葉も食べられるが、コブのような根も食べる。刻んでスープに入れるとサクサクして、イモのようでもあった。
 オランダでは庭先販売というスタイルほとんどないらしいが、町のマーケットには、生産者が直接持ってきて売っている。消費者も作る人の顔が見えていい。BIOのものの値段は町の普通のものと比べて、確かに高いものもあるけれど(たとえばカリフラワーは2倍位とか)、全体にそう高いわけじゃない。日本でもこういうBIOのマーケットが増えて欲しいものだ。
 友達が「また、行くわ」と言っていた、お客さん一人獲得!

●ベジタリアンレストランinアムステルダム

 運河沿いにあるマクロビオティックのベジタリアンレストラン『De Bolhoed』。店内には緑の植物がたくさんおかれ、壁いっぱいに絵が描かれ、木の床に手作り風の椅子やテーブルがある、こじんまりしたお店。
 注文したのは、キッシュ+サラダのセット約1150円、スープ+サラダで約1000円とちょっと高め。キッシュは大きいパイ皮の中に、ブロッコリや人参、ジャガイモ等の野菜がぎっしり詰まっていて、パイ皮の上には白ゴマがたっぷり。オーブンで焼いて温めてくれる。ゴマとさくさくした皮がいいかんじ。スープはミネストローネに豆をいれたようなのが、どんぶり一杯とパンが2切れ。サラダは野菜だけではなく、玄米、小豆のレモン煮、アルファルファや海草もたっぷりついている。両方とも思ったより、食べごたえがあり、お腹一杯。この店は若い人が多いようだ。

 


旅の訪問日記.7オランダ

●オランダのグリーンエネルギー

 オランダのエネルギー研究所で、太陽電池の研究をしている友人に頼んで、仕事場を見せてもらった。900人位の人が働いている。大学と産業界の間をつなぐような研究機関で彼のいるソーラー部門は45人、その他風力発電、バイオマスガスによる発電などの部門もあるという。
 研究所内をいろいろ案内してくれ、専門知識がない者にもわかるようにと工夫して話してくれたものの、悪いけど、チンプンカンプン。
 そこで彼にオランダの風車とグリーンエネルギー状況を聞いてみた。オランダといえば風車。昔風のはあまりないが、発電用のは畑の中や、海沿いの道でよく見かける。風車一台で500KWを発電でき、一台30万ドル(3億6千万円位)という。けれど驚くことに、“7~8年で償却”できるという。農家の人などが投資しているけれど、景観や騒音のこともあってどこにでも立てていいわけではないらしい。
 オランダの原発は現在ひとつだけが稼動。これも3年以内に閉鎖することが、すでに決定されているそうだ。グリーンエネルギーは、今は全体の1%だが、20年後には20%を目標にしており、これは達成可能な目標とのこと。
 「オランダの一般家庭では、1KWにつき3円位(25KWにつき1ギルダー)を電気代に上乗せして支払うと、その家庭へはグリーンエネルギーを供給してくれるんだよ」驚きだ、電気を選べるとは!何かの事情で足りない時は普通のがくるそうだけど。上乗せされた電気代は、グリーンエネルギーの普及のための設備投資等に使われるという。
 いまだに原発は地球温暖化防止に役立つだの何だの言って、まだまだ原発を作ろうとしている日本のことを考えると、その差はいったいなんなのだろう。うらやましがってばかりでは、しょうがないけれど。

●小学校見学

 友達が息子2人を学校に迎えに行くというので、ついていった。「小学生を迎えに行く」というのは、あまり日本では聞かないが、オランダでは低学年の間は結構当たり前らしい。「両親が働いている時はどうするの」ときいてみると、「そこが問題。EUの中でオランダの主婦率が高いのも、そういうところに原因があるみたい。自分で行けない場合は、ベビーシッター等に頼まないといけない」とのこと。毎日の事だけに大変だ。
 学校についてみたら、別に校門もないし、私のような部外者もどんどん建物の中に入っていけるのに驚く。さらに「ここには六つの学校があるのよ」と言われてまたびっくり。建物が六つあるのではない、同じ敷地の同じ建物の中に六つの学校、それも全部『公立校』が同居しているという。内訳はプロテスタント系、カトリック系、無宗教、聴覚障害児用、 LD(学習障害児)用と、落ち着かない、暴力的等の理由で一般の子供と一緒に学べない子供用。
 「じゃあ、図書館や体育館は一緒なんだ?」ときくとそれも全部別々。行事などの交流もないという。
 公立校で宗教が選べるというのは、日本では考えられない。「行く学校はどうやって選ぶの?」と聞くと、まずは宗教で選ぶ場合が多いけど、学校見学に行って説明をきいたり、直接先生達と話したりして決めるという。宗教系の学校では、毎日宗教の時間があるそうだ。
 ついて行ったプロテスタント系の学校の中は、廊下が広く、教室は廊下からガラス窓越しに見えるようになっている。壁の色も、白とか灰色とかいうのではなく、茶や黄色、赤などで暖かいかんじ。廊下側も教室側も大きく取った窓から光が差し込む。一学年一クラスで、教室内を見てみると2~3人づつ机をよせて座っている。先生は一番前にいるが、みなが前を向いて座っているわけではない。
 何の授業かときくと、「一人一人違うから」と言われ、「えっ?」授業時間や学習内容は、その子供にあわせて作られ、全員の決まった時間割のようなものはないという。さらに、担任の先生は大体パートタイムが多い(特に小学校では)という。週前半と週後半で変わるとか、曜日で変わるとか。だから女性が働きやすく、長く続ける先生が多いというのだ。こういう時、日本の常識は世界の常識ではないと思う。
  さて小学校のスケジュールは、朝は8時45分から始まり、終りは3時半。途中に昼休みが1時間半あり、近くの子供(大部分)は昼を食べに帰るという。水曜日は午後1時までで半日。土日は休みだ。夏休みは6週間、秋と春に1週間づつ休みがあり、冬休みは2週間。なんか休みばっかりという気がするけど。
 学校の運営方針を決めるのに、親も参加するシステムになっているらしい。クリスマスやバザーなどをやる親の代表の他に、学校のすべてにかかわることを決定する委員会がある。これは先生2人と親の代表2人で構成され、校長の意見であってもまずこの委員会で承認されなければ、上の教育委員会へはかることはできないという。日本のPTAとは随分違うようだ。
 オランダの小学校では『サムサム』という副読本を使って、開発教育をしている。『サムサム』というのは「均等に分かち合う」という意味で、開発教育というのが正しい言葉かはわからないが、第3世界の人々と一緒に生きることを考えること。この学校では、インド北部で活動している宣教師ともつながりがあり、時々その人に学校に来てインドの状況を話してもらったり、子供達も募金をしたりしているという。子供の時からこういうことを授業で学ぶのは、学科の勉強と同じ位大切だと思う。

 



旅ノート5オランダ

●市内案内『Go for Good Food Guide』

 アムステルダムの自然食品店『De Belly』で、『Go for Good Food Guide』という、市内地図とお店紹介案内がセットになっている小冊子をもらった。
 載っているのは自然食品店、ベジタリアン、ナチュラルレストラン、エコグッズ、第3世界ショップなど。冊子のほうには、英語とオランダ語で店の紹介が書いてあり、地図には種類別の記号で場所がマークされている。これで約100円。こういうお店に関心のある人は、まず手に入れてはどうだろうか。

●伝統ディナー?

 オランダでは友達の家に一週間居候させてもらった。彼女は家事全般が好きではないので、料理も期待できないと思っていたが、それが初日から的中。「支度できたよ」の声に行ってみると、テーブルの上に、蓋つきのホウロウの鍋がどん、どん、どんと3個。
 ひとつめの鍋をあけると、蒸したじゃがいもがいっぱい。ふたつめの鍋には、冷凍のいんげんを茹でたものが山盛り。みっつめの鍋には、すごく大きな肉団子を焼いたもの。「これだけ?」とは聞かなかったけど、ウ~ン。「どんどん食べてね」と言われたものの、肉団子は味がないし、かけるものは塩とナツメグだけで、そうたくさん食べられるものではない。
 後日別の友達にきいたら、それこそオランダの伝統スタイルのディナーだという。朝と昼は基本的に同じもの、パンにチーズやハムなどで料理はしない。夕食だけは料理して食べる。その温かい夕食も、“肉とじゃがいもと緑の野菜の3点セット”と決まっているそうだ。肉がステーキになったり、団子になったり、ラムチョップになったり、じゃがいもは蒸すか、焼くか、揚げるか、マッシュになるか。緑の野菜だけが、毎日変わるという。

▼気品のある馬


「料理に時間かけるなんて勿体ない」
「週末とかは別として、料理時間は30分位。それより、自分の好きなことに時間を使ったほうがいい」
 べつのオランダ人からも同じようなことを聞いたが、どうも料理というものに対する考え方が、日本とは違うようで、彼女がけっして手抜きをした訳ではないのだ。
 でも、そういう世界にあってもベジタリアンの友達は、研究熱心で料理を工夫していた。もし、ホームステイするなら、ベジタリアンの家が狙い目かもしれない。
 そんなオランダ人に言わせると「イギリスには美味しいものがない。いいのは朝食だけ」となる。イギリスって、どんなにまずいのだろう。

 

 

●オランダの学校制度

 オランダの子供は、義務教育で2年間幼稚園に行く。2年目に、小学校に行く準備ができていないと判断された場合、後一年のばして、3年行く子供もいる。小学校は6年間。その後がまた日本とは大きく異なる。
 6年の中頃までに卒業後の進路を決定し、4コースある進路の一つを決めなければならない。ひとつは専門教育コースで、職人、農業者等を目指し実技と専門の知識を学ぶ。あとの3コースは中等教育で、小学校のあと、4年コース、5年コース、6年コースに分かれる。4年/5年コースの修了後は、専門学校又は就職、6年コースは大学進学への道がある。
 一旦決めたコースの変更は不可能ではないが、実際はとても難しいのだそうだ。4年/5年コースの希望者が同じ位で、一番多いという。コース決定には、子供の希望、親の希望、学習成績などを担任と話し合って決めるが、この段階で、三者の意見が食い違うことは、ほとんどないらしい。普段からよく話しあっているからだろうか。
 それにしても将来の道を6年生で決めなければならないのには、ちょっと違和感がある。日本のような学歴社会ではなく、それぞれの職業が尊重されているからだろうか。一方で、ヨーロッパに残る階級社会の名残りもあるような気もするが、どうなのだろう。

●マクロビオティックについて


 自然食品店をまわっていて、どこにでも日本食があることに驚いた。味噌、醤油をはじめ、海草、麺類、梅干し、たくあんと必要なものはほとんど揃っている。最初は日本食って、自然食のなかでも結構評価が高いんだなあと思っていたが、そのうちこれは日本食としてだけ認識されているのではなく、マクロビオティック用品として揃えられているのではないかと思いだした。
 マクロビオティックというのは、「地球と調和して長生きする方法」という意味らしいが、普通は陰と陽のバランスを考えた食事法、健康法と説明する。この考えをまとめ、広めたのは、桜沢如一。だから、もともとの食事のベースは日本の伝統食で、食材もいわゆる日本のものを多く使う。日本ではあまり知られていないが、欧米のベジタリアンや自然食の人には、かなり浸透しているらしく、料理教室もあるし、本も沢山ある。マクロビオティックのレストランも各地にある。
 ヨーロッパでは、国にもよるけれど、ベジタリアンという考え方は相当普及しているようだ。英語の旅行ガイドブックには、ベジタリアンレストランがのっているし、ベジタリアンへのサジェスチョンも書いてある。マクロビオテイックはそういうベジタリアンの人に、ただ動物性食品を食べないだけでなく、なにをどんなふうに食べればいいのか、病気の時はどうすればいいのか、といったことを体系的に提示しているのが、魅力なのかもしれない。
 自然食品店に日本食があるというのは、(本来の)日本食はヘルシーな食事だという考え方が普及しているのだろう。でも日本では自然食品店利用者でも知っている人が少ないマクロ ビオティックが、果たした役割も大きい。

 



旅の訪問日記.10イギリス

●Wrold of Difference
 
 ユーストン駅の近く、大通りから一歩入った路地に『Wrold of Difference』がある。中に入ると、まずは文房具類、絵葉書、カード、リサイクル文房具、Tシャツなどが並ぶ。奥に進むと本、フェアトレード食品や衣料、ベジタリアン皮革製品があり、地下につづく。地下の部屋はペイント、壁紙、家の段熱材やコンポスト、ソーラーパネルや風車のモデル等の大型品がある。またコットン100%の生理用品や、トイレットペーパー、ナチュラル下着などの生活必需品も並ぶ。
 1階だけで12坪ぐらいと、そんなに広くはないが、細々したものがぎっしりと並び、ひとつひとつ見ていくと、面白い。店番していたのは、ドッレッドヘアーの若い男性。オーナーは女性で、彼ともうひとりのアルバイトがいる。このような店は、ロンドンでは1軒だけという。5年前からコベントガーデンではじめ、ここに移ってきて3年位。カタログを作って、通信販売もしている。
 自然エネルギーで動く玩具っぽいものがあるが
「実際こんなものでも、何かがまわるとか、電気がつくとか、ラジオが鳴るとか、目に見えると、納得できるからいいと思う」
なるほど、興味をもつきっかけになるというわけだ。

 


 “ベジタリアン皮革製品”とはなんだろう。
「燃しても有害じゃないプラスチックでできている、皮の代替品だよ。そのうえ70~80%バイオディグレータブル(生分解可能)なんだ。これで靴や皮ジャン、バッグなんかを作るんだ。普通の皮と同じように汗を外に出したりできるし、見た目も全然変わらない」
「これはすごくいいもので、扱っているのがロンドンではうちだけだから、けっこう注目されてる。僕の友達なんか、ベジタリアンなのに革靴履いているんだよ!」
そんな風に言わなくてもと思うが、今まで厳格なベジタリアンの人には、キャンバス地の靴しかなかったわけか。しかしこんなものまで作ってしまうとは、ベジタリアンの人数が多い、ということだろう。
「うちは中国政府の人権政策に反対だから、中国製品はおかない」
そこまで考えて、商品を選んでいるのだろうか。品物を選ぶ基準を聞いてみると、店のポリシーとして、文章化されているものを見せてくれた。

・作る過程や、製品(成分)が環境にダメージを与えないこと。
・長く使え、修理できること。
・過剰包装でないこと。
・リサイクルできるか、捨てた後もできる限り環境にダメージを与えないこと。
・動物実験をしていないもの。その製品が動植物に影響を与えないこと。
・兵器を取り扱う会社のものでないこと。
・第3世界でも、先進国でも、労働者が搾取されていないこと。

 文章にして、公表するというのは、店の経営を考えると大変なことだと思う。
「もちろん、完璧にはできないよ。問題のある場合はどちらがメリットがあるかで判断する。例えば、このとうもろこしからできてる生分解可能なボールペン。これはいいものなんだけど、作っているのがモンサント社なんだ。」
あちゃー。それは悩む。モンサント社といえば、古くはベトナム戦争で猛毒の枯れ葉剤を作り、今は遺伝子組み替え種子を推進している、あの会社である。
 経営はどうなのかきいてみると、やはり楽ではない様子だが、通信販売では大型のものが動くという。又、店をサポートしようという人は、100ポンドを払って会員になれる。2000年の12月末まで有効で、全商品15%引き、ニュースが年2回送られてくるしくみだ。
 こういう主義主張のはっきりした店にあうと、元気がでる。自分でやることを考えると、ちょっとしんどそうだなと思うけれど。



旅の訪問日記.11イギリス

●『OXFAM』

 イギリスに行く前からオックスファムという名前だけは聞いていたが、フェアトレード(公平貿易)のグループなのかなと思っていたら、実際には『チャリティ(慈善)団体』と呼ばれていることがわかった。ロンドンの中心部には、何軒もオックスファムの店があるし、地方の町でもよく見かける。
 お店で売っているのは、古着や中古の家庭用品、古本などが大部分を占め、フェアトレードの商品は、片隅に並んでいるだけだ。いっけん、普通のリサイクルショップのようだが、大きく違うのは、これらの店で売られている中古品は、すべて寄付されたものだということ(毎週200トンもの古着が集まる)、店の運営スタッフのほとんどがボランティアだということ、そして収益はオックスファムが、海外で行なっている事業に使われるということだ。
 オックスファムのリーフレットによると、設立されたのは1942年、ドイツに占領されたギリシャで、難民となった人々を助けようと緊急支援をしたのがが始まりだったとある。最初は戦争による難民や、飢餓などの緊急支援が中心だったが、だんだんに、援助を必要としている国や地域が、自立していくための支援プロジェクトが多くなってくる。その過程で、フェアトレードという考え方、仕事を作り、生産物の価格を保証するという事業が生まれてきたようだ。
 96年の資料では、イギリスとアイルランドのオックスファムの収入は年間8千万ポンド、約160億円と巨大だ。そのうち個人からの寄付が40%、店での売上が20%という。また支出の84%は海外のプロジェクトで、関わりのある国は70ヶ国を越えるという。
 そのオックスファムのエジュケーションセンターに連絡し、フェアトレードについて話しを聞きに行った。ヴィクトリア駅の裏にある事務所では、15人のスタッフプラス10人位のボランティアが働いている。はじめに話しをしてくれたロジャーは、スタッフになってまだ一年ぐらいという。フェアトレードの、とくにコーヒーについてききたいというと、詳しい人を探して来るからと、まずは資料室に案内してくれる。
 部屋の壁一面がすべて本棚で、そこにプロジェクト別、国別の資料がびっしりとファイルされていて、その数に圧倒される。そこのスタッフによると、オックスファムでは、教育と宣伝(キャンペーン)に力を入れており、ここはそのためのオフィスなのだという。例えば、寄付や募金を募るためのキャンペーンや、マスコミ等へむけて活動内容の宣伝や、政策へ意見を反映するためのロビー活動、学校で第3世界のことをとりあげるよう資料を提供する等。又教師が教材を探しにくることもある、という。
 「ある商品をフェアトレードされたものだというときに、どういう基準があるの?」ときくと、団体によってそれぞれ違うが、売上の5%~10%は生産者に渡るようにするとか、生産者や労働者の作業環境が守られているか、組合をつくる等の基本的な人権が保証されているか等をチェックするという。でもそれだけでなく、フェアトレード団体の「共通の基準」を作ろうとしているところだという。
 コーヒーについては、いくつかのフェアトレード団体が協力してつくった、『カフェダイレクト』というレギュラーコーヒーは、イギリスのコーヒーのシェアの5%を占めるているそうだ。これは大きい。一般のスーパーでも買えるし、カフェでも飲めるようになってきているので、今後ももっと増えそうだ。
 何人かに話しをきいたが、オックスファムの活動の中では、フェアトレードは比較的小さい部門のひとつだな、という印象をうけた。また仕事が細分化されていて、全体のことがわかっている人が少ないかんじ。つまりそれだけ大きな組織だということだろう。みな忙しそうな仕事の間をぬって、フレンドリーに対応してくれる。全部で5人の人と話をし、資料を少しコピーさせてもらい、引き上げた。
 あちこちのオックスファムの店を見ていると、そこで働くボランティアの人達が、第3世界のことを、可哀相な人達、助ける対称としてしか見ていないような気がする時がある。善意はもちろんわかるけれど、その国の文化を知ろうとか、どんな食べものを食べていて、どんな暮らしをしているのか、そういうことにはあまり興味がなさそうだ。それでも、こういう店があちこちにあるというのは、本当にいいなあと思う。不用品を寄付するのも、店を利用するのも、それを通して世界の人とつながれる、そんな店日本にも是非欲しい。

 



旅の訪問日記.9イギリス

●『ethical consumer magazine』

 ロンドンの自然食品店で上記の雑誌をみつけ、買ってみた。直訳すると「倫理的消費者の雑誌」といったところ。A4版、40ページほどで、3ポンド(約700円)だ。内容は、商品案内が半分位を占め、その他、環境、人権、動物保護等に関する記事がのっている。
 メインの商品案内でとりあげられているのは、この号では家庭用洗剤、ヨーグルト、ジーンズ、犬猫用の蚤取り。例えば、家庭用洗剤では、大手メーカーからスーパーの独自ブランド、自然食品店でよくみかけるエコバまで計30種類を並べ、その製品とメーカーについて、環境4項目、動物3項目、人間4項目、その他2項目の計13項目について○△Xで採点している。各メーカーの住所ものせている。
 各項目について見てみると、環境の中には、公害、環境政策、原子力利用、等がある。動物には動物実験や過密飼い。人間には人権政策、労働者の権利、無責任な宣伝、兵器会社とのつながり等。またその他の項目として政党への寄付、ボイコット運動の有無がある。
 記事はまずその採点表を解説し、その後で買うならコレというのが、推薦されている。ものを選ぶときに、値段が安いからとか、大きなメーカーのだからというのでなく、環境政策や人権問題を含めてもっと全般的に判断する。この雑誌はそのための資料を、提供しているのだ。メーカーの住所をのせているのも、消費者として手紙を書いて、直接改善を要求するなどの行動をとるためだ。
 面白かったのは、この雑誌の読者インタビューで、今回はピアノ教師の55歳の女性。質:は編集部、答:は読者
質:倫理的な理由で買わない、又はボイコットしているものものは、ありますか?
答:ネッスル社のもの。フェアトレード品以外のコーヒー、遺伝子組み替え農産物。
質:積極的に買う、サポートしているものがありますか?
答:オーガニック食品、フェアトレード食品。とくにスーパーにおいてあるもの。動物実験なしの化粧品。
質:それら買うときに、何か困ることはありますか。
答:車でいく遠くの店でなく、歩いていける近くのスーパーなどで買おうと思っているのですが、スーパーなどは売れ行きが悪いとおくのをやめてしまうこと。そのたびに、置いてくれるよう手紙を書かなければなりません。
質:環境の危機を認識することで、あなたの生活は変わりましたか?
答:車を使う回数を減らし、なるべく歩くようにしています。キッチンのごみはコンポストに入れています。リサイクルを心掛け、服も特別な時以外は、古着を買うようにしています。
質:倫理的消費者という考え方は、どんな影響を与えましたか?
答:私にとってはとても大事です。環境によいものは、それを作る労働者の生活の質と、とても関係があることがよくわかりました。それに、今まで個々の問題だと思っていた野生動物保護とか、人権とか環境問題等が、実はみなつながっているのだということを実感しています。
 最後に彼女が答えていた「すべてがみなつながっている」ということ、これはとても大事なことだ。商品というのはそれだけで存在するわけではなく、作った人、メーカーの考え方、作られた地域等が関係しているのだから、購入する時に様々な角度から考えるのは、大切なことだと思う。ただ日本では、企業の情報の公開度が低いので、ここまで調べるのは難しいだろうなとも思った。
 この雑誌は、定期購読を中心に1万5千部位売れているらしい。イギリスの人口が日本の約半分ということを考えると、けっこうな数だと思う。日本でも、広まっていって欲しい考え方だ。

●原子力施設、セラフィールド

 湖水地方での幸福な時間は、今思いだしてもあの時の空気まで蘇るようだ。が、帰国してから、重要なことに気づき、ショックを受けた。それは核燃料再処理工場のあるセラフィールドが、ウィンダミアから30kmも離れていないという事実。
 セラフィールドについて、聞いたことはあったが、それが湖水地方の“国立公園内”にあるとは思ってもいなかった。そこには、再処理工場だけでなく、稼働中の原子炉が4基あり、プルトニウム製造用原子炉、使用済み燃料貯蔵施設、さらに低レベル放射性廃棄物貯蔵施設とさまざまな施設が集中的に建設されている。ここの北にも南にも原子炉が並び、このあたり一体は、原発銀座だったのだ。
 セラフィールドの再処理工場の放射能の放出量は、規制が甘いおかげで、この沿岸海域にはすでに、0.5トンのプルトニウムが捨てられているそうだ。さらに頻繁に起こる事故(79年~87年までで700件以上)により、大量の放射能が空気中にも放出されており、それは周辺の子供達の白血病の増加、全国平均の10倍という数字になって現われている。湖水地方の村では60人に一人の割合で、子供がガンで死んでいるというデータもある。また再処理工場を支える、最大の顧客が日本であることも、忘れてはならない。
 のんびりと草をはんでいた、牛や羊も、そのミルクも肉も高濃度に汚染されている。歩き回っていたあの気持ちのいいフットパスも、汚染されていたんだと考えると、ぞっとするが、実際に住んでいる人達の恐怖は、どれほどのものだろう。けれどいくら考えてもわからないのが、100年前の景色を100年後もと言っていたナショナルトラストとセラフィールドの関係だ。手もとにある湖水地方のナショナルトラストの地図や資料には、原発関連の施設のある地名ものっていないし、もちろん記述もない。放射能汚染は、半減期に2万年以上もかかるという、回復不可能な問題なのだが、自然保護団体は何かしているのだろうか。
 日本でも湖水地方のガイドブックや写真集は、山のようにある。が、セラフィールドについて触れている本は見かけない。実際に旅していたときにも、原発について見聞きしたことはない。あの素晴らしいエリアが放射能に汚染されているとなれば、観光に与えるダメージも大きいだろう。けれどこのままでいいわけはない。まずは正確な情報を広め、観光客にも、うわべだけでなく本当の環境を守るために、何ができるのか伝えて欲しい。

 



旅ノート6イギリス

●まずい

 中華料理は、どこの国で食べてもそんなには外れがないが、ロンドンでは中華ですらまずい、というのは発見だった。「フィッシュ&チップス」という魚のあげたのとフライドポテトも、あんなに油でぎとぎとのものが、おいしいという人がいるから不思議だ。評判の「イングリッシュブレックファースト」も、ほとんど動物食で、私にはむかない。卵は二つもいらないし、ベーコンやソーセージやハムも添加物が多そうなうえ、油ぎっている。ベイクドビーンズという豆の煮たのも不自然に甘いし、缶詰をあけて温めただけというかんじ。もっと高いお金を払えば、満足できるのかもしれないが、バジェット旅行者は、そうもいかない。他の国では、普通の人が普通に食べるものが、こんなにまずいなんて、あまり経験したことがない。
 考えた結果、食パンを買って部屋でサンドイッチをつくり、持ち歩くことにした。これならどこでも食べられるし、あとは飲みものを買うぐらいですむ。スーパーでサラダを買ったら、ドレッシングに“増粘多糖類”がこれでもかというぐらい入っていて、とても気持ちが悪く、ほとんど残した。サラダでもパンでもよく見ると、日本と同じで添加物が多く、安心して食べられるものが少ない。

●加工食品ばかりのスーパー

 “マークス&スペンサー”というチェーンのスーパーに行ったら、店中が冷蔵庫だらけだったのには驚いた。野菜・果物類も、カットしたり、むいてあったりする。用途別に炒め用とか、つけ合わせ用等にブレンドされ袋づめされた野菜が、冷蔵庫に並べられている。サラダの種類も沢山あり、すべて使い捨てのプラスチック容器に入っている。環境のことをあまり考えていないようだ。
 そのうえ温めて食べるだけのセット料理が冷蔵品も、冷凍品もとにかくすごい種類ある。値段も安いのから高いのまでさまざま。夕方いくとけっこう棚がすいているので、売れているのはわかったが、これで食事をすます人が多いのだろうか。日本の将来を見るようだ。(関係ないけれど、このスーパーの両替は、レートがよかった)

●ベジタリアンレストランinロンドン

 コベントガーデンの近くの『Food for Thougut』は、有名な店らしく混んでいる。一階は、持ち帰り専門で、地階がレストラン。先に注文して支払いをしてから、席に座り、あとはセルフサービス。手書きメニューがボードに書き出されているが、こういうのをぱっと読むのは難しい。それで「今日のお薦めは?」ときくと、「そこに書いてある」と一言。「読めないから説明して」というとやっと面倒くさそうに、メインがチリビーンズか、中華風野菜炒めという。セットはパンがつくというので、メインのセットを2種類頼む。二人分で1800円。
 狭い店内は人がいっぱいだ。やっと空いた席をみつけてすわる。料理はわりと美味しいけれど、まわりの人をみたら玄米を食べている人もいる。ごはんがのほうがあうので、ひとことごはんかパンがあると言ってくれればいいのにと思う。狭いからみな相席になるのだが、私達の隣は席があいているにだれも座らず、他があくのを待っている。そういえばまわりはみんな白人ばかり。もう一回行きたいとは思わない店だった。
 別のベジタリアンレストラン『Govinda』は、クリシュナ教団がやっている。ここの店は、食べ放題のミールが一人1200円。ミールという名前からもわかるように、インド風だ。スタッフに「このカレーは何?」ときいいたら、「マダム、カレーではありません。サブジといいます」と言われた。丁寧だけど、なんとなく小馬鹿にされているようでもある。ステンレスのお皿に玄米か白米のごはん、パパドという揚げせんべい、野菜のサブジが2種類、豆を甘く煮たもの、サラダなどがつく。お代り自由だ。
 やはりお客さんが多く、とても混んでいるが、ここはいろんな人種の人がいるので、落ち着ける。隣のカップルの女性が、日本の友達にすごく似ているので、思わず話しかけてみると、オーストラリア人だという。「これから湖水地方に行くんだけど、ユースでいいところあるかなあ」というので、「ホークスヘッドはすごくいい」と教えてあげた。インド風料理が好きなら、お薦め。

●『Cafe in the Crypt』

 ロンドンのトラファルガー広場の前、ナショナルギャラリーの右隣の教会の地下にあるカフェ。教会の正面入り口から脇にまわったところに地下におりる階段がある。中に入ると、石がむきだしの壁、アーチ状の柱がいくつも並び、全体は薄暗い。白熱燈に照らされたところだけが、ポッと明るく、暖かい雰囲気を感じる。中は広く、席数も多い。バックに流れるクラシック音楽も心地よい。
 このカフェは、セルフサービスで、欲しいものをお皿によそってもらう。野菜料理の種類が多く、サラダ3種類、ジャガイモ、煮込み、スープなどはいつもある。野菜3種類の盛り合わせはちょっとお得で、800円位。これを頼む時のコツは、3種類を別々の皿に入れてもらうこと。そうしないと上からどんどんかけられて、ぐちゃぐちゃになってしまうことと、ひとつづつよそってもらうと明かに量が多い。(バジェット旅行者!)コーヒーも1ポンド(235円)と、ロンドンの中では安い。
 いつも混んでいるのだが、座れないことはないし、雰囲気も気に入ってつい長居してしまう。あるとき床(石)に、文字が書いてあることに気づき、まわりを見ると、他にも沢山ある。「あっ!」と思った。ここは全部お墓なのだ。こういうところをカフェにする感覚、日本と違うけど、いいじゃない。

 



旅の訪問日記.8イギリス

●湖水地方の旅

▲ウィンダミア湖。小さな島がいくつも見える

 

<憧れのウィンダミア>
 ウィンダミアの田舎駅で、電車を降りた私は、ただただ嬉しかった。小学校5年ごろから、いったい何回地図を広げ、このウィンダミアという地名を探しただろう。地図の上の細長いウィンダミア湖を見ては、「このかたち、やっぱりそうだ」と、一人で納得していた。行ってみたい、見てみたいとずっと思っていた場所に、やっと来られた。
 イングランド北部の湖水地方は、ピーターラビットシリーズの故郷ということもあり、作者ポターの家や、ギフトショップなどは、沢山の日本人で賑わっている。けれど私にとっては、「ツバメ号とアマゾン号」の、アーサー・ランサムの物語にでてくる舞台としての、湖水地方なのだ。


 「ツバメ号とアマゾン号」シリーズを知らない人に、この物語の素晴らしさを伝えること


▲ターンホウ

はできないが、あえていうならば、子供達が夏休みを(湖水地方で)いかに過ごしたかの話。そこには帆船あり、キャンプあり、敵との戦いがあり、トレッキングがある。それらを大人ぬきで子供達だけで楽しむ、自分達で計画をたてて、真剣に遊ぶ子供達の日常が、こと細かに描かれている。同じ年ごろだった私は、彼らのなかの一人になって、湖を帆走し、キャンプ場でお茶を飲んでいる自分を想像していた。12冊のシリーズのなかでもツバメ、アマゾン(そしてD兄弟)が主人公で湖水地方がでてくるものは、何回読んだか数えきれない。
 まずは、駅前のインフォメーションで聞いた安いB&Bに荷物をおろし、さっそく湖に向かう。歩いて20分位で、湖沿いの、このあたりでは一番大きな町、ボウネスの桟橋にでた。対岸はけっこう近く、南北に細長いのがわかる。ヤマネコ島?というような島がいくつか見え、小さなヨットが本当に走っている!これを実際に見ただけで、来たかいがあったと思った。が、ウィンダミアも、ボウネスもすごい観光客で、ギフトショップや、レストランなどが立ち並び、まるで夏の軽井沢のような賑わい。人気の観光地なのだから、当然といえばそれまでなのだが、そのメジャーぶりには、ちょっとがっかり。

●ホークスヘッド

 次の日、ホークスヘッドのユースホステルへ移る。ウィンダミアの駅前からバスに乗り、湖に沿って、北へ向かう。20分ほどでアンブルサイドに到着、乗り換える。すると景色が一変し、山道になり、細い道をくねくね行く。やがてホークスヘッドのバス停に到着。バスはポターの家のあるニアソーリー付近をまわって、またこのバス停に戻ってくるのだが、その途中にユースがある。少し走ると、小さな湖が見えてきた。降っていた雨も上がり、明るいいい天気になってきた。湖を3/4ほどまわったところでドライバーが、「ここだよ」と声をかけてくれ、降りた。
 確かに看板はあるものの、森の中に続く小道があるだけで入り口からは何も見えない。一体どうなっているのだろう?と思いながら歩いていくと、突然前が開け、大きな洋館とそれに続く広大な芝生が見えた。これがユース?こんな素敵な建物が?
 建物の中には男女別のドミトリーがあり、家族用のコテージは別棟にある。ドミトリーは一人9.75ポンド約2300円、家族用だと3人部屋で30ポンドからある。男女別なのが面倒だが、ドミトリーに入った。私の部屋は6人部屋、木製の二段ベッドで、部屋の中に洗面台がある。各ベッドにはライトや小物を置く棚があり、便利に作られている。
 さっそく散歩にいく。ホークスヘッドの村までは歩いて15分位ときいた。ユースの隣の牧場の前を通ると、なんと「ハウ農場。B&B」と書いてある。「ハリハウかも?」(ワカラナイ人ごめんなさい)羊と牛がのんびり草を食べ、農場や昔風の家がぽつぽつ見える。緑の丘とそれに続く岩山。そのまま絵葉書になりそうな景色だ。
 ホークスヘッドの村の中心は5分も歩けば一周できてしまう。ツーリストインフォメーションで、このあたりのトレッキングのマップとコース説明の書いてあるリーフレットを買い、パンやジャム、ヨーグルト等を買う。
 帰って自炊用キッチンに行ってみたら、まるで学校の調理室のようにがらーんと広い。きれいに掃除されたレンジ台やシンクがいくつもあり、皿、カップ、鍋、ポット等が勢揃いしている。冷蔵庫はもちろん、オーブンや電子レンジ、トースターまである。椅子とテーブルもざっと30人分位はありそうだ。さっそくお湯を沸かし、備えつけのティーバッグをポットに入れ、外のテーブルに座る。前の湖を眺め、羊のなき声を聞きながらのティータイムは、昨日とはうってかわり、ここに来られて幸せとしみじみ感じた。 

●パブリックフットパスを歩く

 翌日から、自炊のキッチンで朝食を食べたあと、お昼用にサンドイッチを作って、トレッキングに行くという生活パターンになった。ユースは10時から13時までは外にでなければならないので、丁度いい。

 ホークスヘッドの村から、地図に書いてある道をたどる。この地図と説明を読むのが、なかなか大変。小道を歩いているうちに、突然木の柵が現われ、パブリックフットパスと書いてあるが、柵の向こうは牧場で、牛や羊がこっちを見ている。説明には、はしごを登って柵をこえ、右前方に何ヤード行けと書いてあるばかり。いいのかなと思いつつ、牛が少なそうなところを選び、牧場をよぎる。そのまま歩いていると、また木の柵が見える。それをまたぎ、次に川を渡れとか、丘を登れとか指示のままに行く。
 牧場をいくつか超え、車のこない道を歩いていくと、池があったり、美しい眺めの場所があった

▲カフェ こういう場所があればろばやも売り上げUP

り。パブリックフットパスという標識さえ見落とさなければ、大丈夫ということがわかり、安心した。
 歩いている間、ほとんど人に会わなかったのも意外だった。ボウネスやウィンダミアには、あんなに観光客がいたのに。登山とも違い、あまりアップダウンのない道を、車を気にせず、散歩気分で林や牧場をぬけて歩く、たった一回でパブリックフットパスのファンになってしまった。
 帰りがけに夕食の買物をして、ユースに戻ると3時すぎ。今日から二日間、小学校低学年の子供達が集団で泊まっているので、なかなかうるさい。が、自炊のキッチンは静かで、子供連れの家族や定年後の夫婦等を、時々見かけるぐらいだ。あらかじめ家で料理したものをタッパーなどに入れて持ってきて、温めるとか、パスタをゆでて、レトルトのソースをかけるというような食事を作っている人もいる。マーガリンやジャム、シリアル等も、家で使っているのをそのまま持ってきているようだ。車で来ているせいもあるが、気取らないかんじがいい。

●ナショナルトラスト

 日曜日に、ホークスヘッドから周辺をまわる無料のバスがあるときいて乗ってみることにする。これは自然保護団体のナショナルトラストが、観光地に乗り入れる車を少なくしよう、とやっているという。ターンホウという神秘的に美しい湖や、蒸気船の走るコーニストン湖などをまわる。途中で乗ったり降りたりしたが、乗客はいつも私達だけで、まるで貸切バスだ。
 ナショナルトラストは、どういうことをしているのか、ドライバーに説明してもらった。
「ナショナルトラストは湖水地方の国立公園の1/3位の土地を所有して、管理しているんだよ。」土地はどうやって、手にいれるのだろう。
「買うときもあるし、遺言で寄贈されることもある。このターンホウっていう湖も個人のものを、遺言でナショナルトラストに残してくれたんだ」

                        ▼幸せそうなヒツジたち


 ターンホウには、湖に沿って一周する、自然のままの遊歩道がついていて、歩くととても気持ちがいい。日本と大きく
違うのは、食べもの屋、お土産屋が一軒もなく、スピーカーからうるさい音楽が流れ続けるということもない。
「そういうものが欲しい人は、町にいけばいいんだよ。ここは美しい自然以外に何にもない、だから人がくるんだ」この言葉を、日本の観光開発業者に聞かせたいものだ。
「例えば、コニストン湖は、ターンホウとは違い、賑やかだけど、町はちょっと湖から離れているだろ?湖の周りはできるだけ自然のままにしておいて、カフェとかショップはちょっと離れた町につくるほうがいいと思うんだ」
「ナショナルトラストは、古い建物も持っているし、農場も91持っていて、貸しているんだよ。農場は、この地方の景観を守るためにもとても大切なんだ。家を建てる時は、昔と同じような材料を使ってもらう。B&Bを作って、農業以外でも収入が得られるように、手助けもしているよ。農場の中に、パブリックフットパスも作るし、農家と協力していくのは、大事さ」
昨日牧場の中を歩いて行けたのは、だからなんだと納得。
「100年前と同じ景色を100年後も見られるようにって、思っている。年間に1800万人もの観光客が来るから、道をなおしたり、森の手入れをするのも、結構大変だけどね」絵本や物語に出てくる景色が、そのまま残っているのは偶然ではない、こういう地道な努力があるからこそと、理解した。
 一週間、毎日近くのパブリックフットパスを歩き、紅葉しかけた景色のなか、気持ちのいい時間を過ごした。こんな時間の過ごし方、自然とのかかわり方が、アーサー・ランサムが物語を生みだすもとになったのかなと思った。実際に彼の足跡をたどることはなかったが、来てこの風景を見て、空気を感じられたのが嬉しかった。
 ユースも小学生の集団が去ったあとは、人が少なくなり、4人部屋を2人で使わせてもらえ、自炊のキッチンも独占状態。スタッフもとてもフレンドリーで、是非又来たいなと思える宿だった。